旅のお宿

三国無双 〜あとがき〜

 ということで、コーエーさんの名作「真・三国無双4 Empires」リプレイ日記、完結です。
 最終話はこの記事の一個下にあるので、まだの方はどぞう。
 いやぁ、それにしても・・・

 結構軽い気持ちで書き始めたのですが、なかなかどうして飛んでもない。
 吉川英治先生が紹介されて以来、日本でも多くの読者を獲得してきた長編歴史小説だけに、そうそういじくれるものでは・・・
 今回は言わば、ゲームで言うところの軍略パートだけをピックアップして、有名な戦争になぞらえながら書いていっただけでしたが・・・
 ゲーム化されている部分だけでも、もっと色々あります。このソフトは無双シリーズの中でも、「三国2」「三国2猛将伝」に次ぐ名作だと思いますので、未プレイの方、超オススメです!!

 とてもとても、わたしの筆では全てを表現しきれませんでした。
 うちにいらっしゃる方々が三国志好きな方ばかりとも限らないので・・時代考証とかもかなり取っ払ってますし、セリフはともかく、文章では横文字を使ったりもしました。
 これで100回とか描いてたら、ちんじゃいそ。

 ただ、その一方で、もっとじっくり書くべきだな、とも思いました。
 主立った登場人物の数よりも話数の方が少ないという状況ですので、最期の場面しか描かれていない・・それすらシンプルになってしまった人も多く・・・
 じっくりやろうとすれば、もっとしっかりしたプロットを組んで、思いっきり話を練ったり、下調べをしてから、でしょうね。
 人生で、一回くらいはトライしてみたいものです。

 ほとんどネタ無しの(たまにジョジョネタを織り交ぜたりしましたが)作品だっただけに、気合が入ることもあれば、重荷に感じる事もあり・・・
 最終話なんかは、描いていてわたしが気恥ずかしいわ!という気持ちを抑えて何とか仕上げました。
 終わって良かったです・・・完結したら、とりあえずヤッホー!

 最後までおつきあいして読んでくださった方、どうもありがとうございました。

 登場人物の設定を寄せてくださった黒砂漠さん、ニアッピンさん、みそ田楽さん、しらかぜさん、途中、コメントを寄せて下さった皆様にも、感謝、感謝です。

 さて。当分、小説はマイライフ一本に絞りたいと思います。
 ・・・ネタ作りのためにも、やっぱ「13決」買いますかねぇ・・・

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三国無双 〜最終章 それぞれの明日〜

216年 春 洛陽

 多くの人々が見つめる中、徴略の言葉が響き渡る。
 長きに渡る戦乱の終結、そして、新しき時代の幕開けの宣言。
 戦争に疲れた人々は、生まれの異なる帝を戴くことをも受け入れた。
 徴略によって新たに建国された国−晋(シン)は、長く繁栄を謳歌することとなる−

「天下を窺うは我が志に非ず・・頂点を取る必要など無い。」
 多くの羨望と嫉妬を集める中、政務でも辣腕を振るった司馬懿は、終生、臣下としての在り方を崩さなかった。
 司馬懿の遺した言葉のとおり、その後も、司馬一族は常に政権の中枢にあって、統治の実を上げることになる。
 彼の一族が牙を剥く日が来るのは、また、別のお話−

「権力の集中は帝のためにならず、権力の分散は国のためにならぬ。」
 初代宰相を拝命した郤正は、力ある者による独裁を危惧し、各地から招いた賢者に国事を諮る制度を設ける。
 他方、地方の統治にも心を砕き、豪族・太守らによる専横を防ぐ手立てを施した。
 王朝の基盤を築いた名臣は、息を引き取る間際まで、国の未来のために尽くしたと言う。

「国は移ろおうとも、我が一族の富貴栄達に翳り無し!おーほっほっほっほっほ!!」
 勲功を認められた袁尚は、冀州の領有を認められると共に、漢帝国の時代から変わらぬ敬意を払われる。
 病床を出ようとした父・袁紹を隠居させると、袁尚は名実共に袁家当主として、社交界の華となる。
 彼女の傍らには常に、顔良・文醜の2人が控えていた。・・2人の苦労は、終生続いた模様。

 陸遜は交州の領主となり、民族の交流を深めると共に、他国との関係発展へと務めた。
「それとこれとは、あ、あの・・別問題なんですが・・・」
 着任前、たどたどしく話しかけてきた陸遜に対し、迩秋蛙はキッツイ視線を返す。
「え、えっとぉ・・・」
 秋蛙は大きく溜息をついた。
「・・・行くぞ!」「へ?」「へ?じゃない!ついてってやるよ!・・・一生。
「い、今なんて・・」「何度も言わせるなバカァ!!」
 ・・・ゴールまではもう少々、時間がかかりそうだ。

 孫尚香は父祖代々の地、楊州に領地を得た。
 荒れた国土の建て直しに努め、名君と呼ばれたが・・・
 時に、弓を手に城の外へ駆け出し、家臣を慌てさせるあたり、昔のままであり、血筋なのだろう。

 甘寧は尚香の下を辞すると、官職にも就かず、故郷・荊州へと帰り、漁師となった。
 喧嘩っ早い気性は変わらず、地元の顔役になってからも、騒ぎには誰よりも早く駆けつけたと言う。

 陳金峰は最後の戦いの地、涼州へと赴く。
 いまだ火種の消えぬ西の果て。その境目を守る任務を自ら買って出た。
「せいぜい頑張るさ。・・それが、死んだ者達への礼儀でもあるしな。」

 曹彰は都の北方の守りを任される。
 赴任の前日、呂玲騎に想いを告げて、共に旅立つことの了承を得る。
 北方の遊牧民族と言えども、勇猛なる夫婦将軍の前には、戦いの前から陣を払い、二人が在る限り、領土を侵すことは絶えて無かった。

 帝の親衛隊長を任じられた芙泉は、十年その任務を勤め上げた後、故郷・益州の湖の畔に屋敷を構え、余生を静かに過ごした。
 共に親衛隊に加えられた春霞は、芙泉の後を継ぎ、親衛隊長として徴略を守り続けた。
 李姫、桜蘭の二人も親衛隊に加わっていたが、後にそれぞれの幸せを見つけて、徴略の下を去った。

 孟優は兄の後を継ぎ、南中の王となって諸部族をまとめ上げる。
 あえて、徴略は彼の領地を勢力圏から除外し、王としての独立を認めたが、孟優は終生、徴略に臣節を尽くした。

 顎換は孟優に従い、南中に戻ったが、平和な日常に飽きたらず、新天地を求めて旅に出る。
 飛び出していったきりの風来坊は、方々で騒動を起こしたらしく、各地に逸話が残っている。

 老将・賀済は、大将軍への推挙を受けるも、これを辞退。
 「後進を育て、道を譲るのも年寄りの心得よ」と周囲に語ると、野にあって若者を教える道を選ぶ。
 彼の門下からは、多くの優秀な武官が輩出されたと言う。

 策士・徐幕もまた、任官を拒否し、放浪の旅に出る。
 「平和な世の中じゃ、せっかくの頭が錆び付くばかりだ。」という言葉を遺して−

 張汎は独り、各地を旅して、戦乱に散った者達を弔った。
 旅路の果てに、辿り着いた漢中で山に籠もると、そのまま、人々の前から姿を消した。
 後年、彼女を慕う者達が社を祀るようになり、太平道の教えは、連綿と受け継がれていくことになる。

「徴略殿の戦いは見届けました・・私は、更なる美の高みを求め、旅に出たいと思います!」
 そう、高らかに宣言すると、張郃は遙か、西方のローマ帝国を目指した。
 無事に着けたかは定かでないが、後年、ローマより晋に来た使者は、鉄の爪を纏い、闘技場で常勝不敗を誇った勇士の物語を語ったと言う。

 漢帝国最後の皇帝となった穆順こと献帝・劉協は、遂にその正体を明かさなかった。
 ある朝、徴略に別れを告げると、そのまま行方が分からなくなる。
 徴略もあえて、追いかけようとはしなかった。

 −その10か月後、皇帝に世継ぎが産まれると、毎年、皇子の誕生日には、どこからともなく贈り物が届けられたとか。
 衛兵が不審者を見かけても、その者が縄を操ってどこかへ逃げ失せたと聞くと、芙泉も春霞も、笑って追跡を止めさせたと言う。

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三国無双 〜第26章後編 Last Dance〜

対峙する者達・・・

 後ろに立つ気配に、趙雲は振り返る。
「・・・趙雲殿。お命、頂戴仕る。」
「・・・良き敵、か。蜀最後の守り、破れるかな?」

 五虎大将も趙雲で最後となる。
(まさか・・こんな結末になろうとはな・・・)
 巧みに捌かれる長槍。打ち掛かったものの、鴻煉は攻め入る隙を見い出せずにいる。
「甘い・・そこだ!!」
 足下薙ぎ払ってくる一撃を飛び退いていなせば、それが第2撃の引き金。
 目にも止まらぬ速さで繰り戻された槍が、一直線に胸元へと・・・!!

 キィィィィィン!!

「くぅっ・・!!」
 かろうじて剣で弾くも、趙雲は既に槍を手繰り寄せている。
 力量が違う。今や大陸最強の槍使い相手とあっては、鴻煉といえど、分が悪い・・・

「加勢しなくて良いのか?」
 秋蛙の問いに、銘鈴の視線が少しだけ、揺れた。
「・・・そうね・・でも、私には他に、することがある。」
 敵の指揮所を潰し、連携を断たなければならない。蜀も指揮所の異変に気付き、援軍を差し向けてくる。
「秋蛙!春霞!李姫!桜蘭!時間を稼いで!」「承知!」
 短く答え、春霞ら密偵達が姿を消す。秋蛙も、まだ何か言いたそうだったが、諦めたように首を振ると、手勢の元へ駆け出していく。
(ここさえ・・ここさえ陥とせれば・・・)

「うギャアアァァァァ!!」
 また一人、蜀兵が悲鳴と共に倒れる。
「くそッ!!敵の数が多い!戦場が広すぎるッ!!」
 劉禅もまた、戦いの真っ直中にいた。
 諸葛亮の最後の策・・その力も、司馬懿を退けはしたものの、陸遜までは欺けない。
(戦力の差・・!いかに諸葛亮といえども、もはや抗しがたい差だと言うのかッ・・!?)
「うおおっ!!・・おごォッ!?」
 劉禅目がけて突っ込んできた敵兵を、星彩の槍が貫く。
「星彩ッ!このままここに居ても埒が開かんっ!!」
「・・・」

 静かな瞳で、星彩は劉禅を見つめ返した。
「・・・本陣を狙う!!総大将を叩く以外に・・皆を救う手立て無しッ!!」
 劉禅の言葉に、星彩は微かに唇の端を緩めると、共に走り出す。
「・・・今、僕が後退しよう、と言ったら、どうしていた?」
「後の護衛は他者に任せ、父の加勢に赴いていました。」
 淀みなく、星彩は答える。
「・・・無理はするなよ。お前まで死なせるわけには行かぬ。」
「・・・」
「な、何が可笑しい!?」
 精一杯の格好付けを笑われて、劉禅は憤然と星彩を睨み付けた。
「・・・この状況で・・無理するなという命令の方が無理です。」
 もう、周囲には敵兵の姿ばかり。
 追いすがってきた精鋭の護衛部隊も、あらかた壊滅したようだ・・・
 前面に重厚な防御陣が展開されている。このまま激突しても・・砕け散るだけ。
「・・・仕方ない。かなりの無理をしようか・・・」
「『かなり』で済めば万々歳かと・・・」
 目配せをかわすと、2人の若武者は、雲霞の如き大軍に、並んで突っ込んでいく・・・

 ギィィィィィィン・・・

 距離を取り直し、鴻煉は荒れた息を整えようとする。
 もう防戦一方。趙雲の槍先はいよいよ鋭く、こちらの動きは、ことごとく読まれている。
(・・・ここは!一か八か・・・!!)
「ぬおおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
 全力で突進する鴻煉。
 趙雲の目が細くなり、冷徹な輝きを帯びる。

 ガキィィィィィィィィィン!!
 ドシャァァァァァァァァッ!

「ぐっ・・!!」
「相討ち覚悟、か・・その意気や良し。だが、受ける訳には行かぬ。」

 文字通り、趙雲の槍に突かれてでも斬り倒してやろうという鴻煉捨て身の突貫も、神槍の使い手の前には無意味。
 踊るようなステップ。身をかわし、その動作の勢いを乗せた槍は、急旋回から打って出た鴻煉の横薙ぎを上から叩き伏せる。
 弾き飛ばされ、大剣も失い、それでも鴻煉は短剣を抜き、戦うのを止めない。
「・・・最後まで前へと向かうか。・・やはり、天下を制する者には、相応の臣下が集うものだな。」
「徴略様の天下を認めるのなら、なぜ貴方は戦う!?」
「知れた事・・・」

 どこか寂しげな笑いを浮かべると、趙雲は槍を斜めに構えた。
「たとえ・・たとえ天下の趨勢が定まろうとも・・主が行かんとする道を切り開くが、我らの務め。」
 徐々に、足に力が籠もっていく。神速の突きの前兆−
「これで・・終いだ!!」

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三国無双 〜第26章中編 万人敵〜

冬の五丈原 崖上の司馬懿

「うむ・・やはり東の桟道に備えあり、か・・・袁尚殿!西へ回り、中央の軍勢の側面を突かれたし!!」
「・・・仕方ありませんわねぇ・・・」
 中央を守る花形でないのが癪なようだが、それでも袁尚は顔良・文醜・張郃を連れて出立する。
「孟優殿は手勢を率い、左翼より逆の側面を・・」
「わかった。」
 短く答え、孟優・顎換・張汎が進軍する。
「鮮やかな手並みだな・・・さて、逆襲はいつからかな?」
「もうしばらくお待ちを・・・」
「・・・?」

 穆順は司馬懿の横顔を覗き込んだ。何か、浮かない表情をしている。
「・・・どうかしたのか?」
「いえ・・諸葛亮にしては・・攻撃が単調化しているような気がしまして・・他に策を用意しているのやら・・・?」
 戦場は完全に消耗戦と化した。そうなれば、兵力に劣る蜀軍の劣勢は明らかなはずだが・・・?

 ギィィィィィン!!ガッ!・・・

 幾度目の打ち合いか・・甘寧はパッと離れるが、張飛はそれを許さない。
「オラァァァァーーーーーー!!!」
 凄まじい横殴りの一撃を飛び退いてかわすも、疲労が足下をもつれさせ、体勢を崩す。
「!!待ってくれ!お嬢!!」
 援護射撃をしようとした孫尚香を制すると、甘寧は即座に立ち直り、猛然と正面から斬り抜ける!!

 ガキィィィッ!!・・・ゴッ!!

「ぐぅおッ!?」「甘寧!?」
 悲鳴のような尚香の声が響く中、渾身の斬撃を受け止められ、強かに矛の柄で殴打された甘寧が地に転がる。
「けッ・・こいつで!トドメだぁぁぁぁ!!」
 張飛全力の一撃が、頭上に振り下ろされる・・・!!

 ドゴォォォォォォォォォン!!

「なにィッ!?」「・・・甘ェよ。」
 残された力を振り絞り、甘寧は必殺の一撃をかわした。・・・張飛の足下へと転がる事で。
「そしてこれで・・最後だァァーーーーッ!!」

 ドンッッッッ!!

「−−−ッ!!」
 もう後がない。その覚悟を込めた一刀が、張飛を縦に、切り裂いていく・・・
 鮮血が霧のように辺りを包み込む。甘寧は、勝利を確信した。
 ・・・が。

 ・・・ジャリッ!

「!?」「ぬぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 仕留めた・・その油断の直後に、凄まじい一撃が飛んできた。
 避けきれず、矛の柄に弾き飛ばされた甘寧は、剥き出しの岩盤に叩きつけられる。
「甘寧っ!!」
 駆け寄る孫尚香。既に致命傷を負いながら、張飛はなおも動いている。
「死ィィィィねェェェェェェェェェ!!!」
 愛剣に手を伸ばそうとする甘寧だったが、もはや、動く事も苦しい・・・

 ・・ドシュゥゥゥゥゥッッッ!!

 蛇矛と張飛の首とに、一条の荒縄が巻き付くと、もろともに凄まじい勢いで締め上げる。
「ぐぅおおおぉぉぉぉぉぉ!?」「・・・穆順か。・・・邪魔しやがって・・・」
「お前はどうでもいいが・・孫家のお嬢様まで巻き込むわけにもいかんだろ。」
 帽子のつばを跳ね上げると、穆順は強ばった笑みを浮かべた。
「・・・どこまで化け物だ?張飛・・・」
 絡みつく縄を引きちぎり、絶え間なく流れ落ちる自らの血にも構わず、張飛は蛇矛を握り直す。
「・・っがぁぁぁぁぁぁ!!」「!?」
 叩きつけられる一撃を避けつつ、穆順の手元から、刃の付いた縄が放たれる。
 縄は張飛の両腕に絡みつき・・・

「ッ!?」
 霧のような鮮血を噴き上げて、切り離された張飛の両腕が宙を舞った。
「もうそこまでだッ!!止まれェェェ!!!」
「ふざけるなァァァァァァァァァァ!!」
 なおも張飛は止まらず・・・!?

 キィィィィィィィィン・・・

 澄んだ金属音。走り抜ける煌めき。
 ゆっくりと、張飛の右肩から左腰へ・・裂け目が現れ、徐々に広がっていく。
 もう、噴き出る血も、無い。
「・・・芙泉・・・」
 芙泉は静かに、剣を納めた。
「一騎打ちを汚し、申し訳ない。・・だが、もうこれ以上、張飛殿を見るに忍びなく・・・」
 俯き、嗚咽を堪える芙泉。

「・・・がハァッ!・・兄者・・関兄・・・ッ!!!」
 天へ伸ばそうにも、伸ばす腕すら失われ・・
 その想いだけでも、天上の二人に届けとばかりに、張飛は星空を見つめたまま・・ゆっくりと、仰向けに倒れていく・・・

「張飛殿!・・殿に、お伝え下され。例え敵味方に分かれようとも、この郤正、必ずや殿の理想を天下に布いてみせる、と−」
 胸の前で手を組み、英雄を見送る郤正。

 劉備三兄弟最後の一人、張飛 翼徳、散る−

「−−−」
 無言で、趙雲は槍を取った。
 彼方で、懐かしい気配が一つ、消えた気がして。
「皆、去っていく・・この乱世と共に・・・」
 夜空の星に思いを馳せれば、また皆に会えようか・・・?

 感傷的になる自分を追い出すように、趙雲は頭を振った。
「私もまた・・ここに留まるべき人間ではないのだろうな・・・」
 視線を転じ、東の山々を見れば、真紅の炎−

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三国無双 〜第26章前編 星天・鳴動〜

215年 冬 五丈原

 陳倉を失った蜀は、最後の望みを託し、決戦の場に五丈原を選ぶ。
 これを最後の戦いとすべく、徴略も五丈原に軍を展開。
 決戦を前に、両軍は不気味なほど静かに、陣を構える−

 数歩歩いて、諸葛亮は身体を折った。
 止まらない咳。掌に飛散する血の量も、日を追う事に増えていく。
「孔明様・・お一人では危のうございます・・・」
 心配そうに声をかけてくる妻・黄月英に、微かな頷きを返すと、諸葛亮は空を見上げた。
 日はゆっくりと西の果てに落ち、一番星が輝き始めている。
「この夜を越える事ができれば、あるいは−」

 激しい足音に、諸葛亮はかぶりを振った。
「丞相!一大事にございます!!」「張飛殿ですか。」
 見事に言い当てられ、姜維は思わず言葉に詰まる。
「・・・ご、ご存知だったのですか!?」
「いえ・・どうにも・・悪い予感というものは、的中してしまうものですね・・・」
 あごに手を当て、少し、考えをめぐらす。
「見捨てるわけにも行かないでしょう・・全軍に、攻撃の指示を。」
「し、しかし・・・」
「見捨てろ、と命じれば、内部崩壊を起こすまでです。戦った方が・・まだ、打てる手もある。」
 諸葛亮の言葉に頷くと、姜維は慌ただしく駆け去っていく。
「・・・」
 その背を見送る諸葛亮の眼差しは、どこか、寂しげで−

前線の張飛

 ただ一騎、大軍勢の真っ直中を突っ切っていく男がいる。
 張飛 翼徳。かの関羽をして「自分など足下にも及ばない豪傑」と言わしめた猛将。
 日頃、豪放磊落を絵に描いたようなこの男が、無言で蛇矛を振るっている。
(関兄が死んだ・・・)
 矛の一閃で、無数の兵が薙ぎ倒される。
(長兄ももういねぇ・・・)
 近づきすぎた兵には太い足が伸び、内臓を破壊するような蹴りが放たれる。
(みんな・・いなくなっちまう。俺ぁもう・・独りだ・・・)
 泣きそうな顔とは裏腹に、その武はいよいよ威光を増し・・・もはや、鬼神の域に至っている。
「ひぃぃ・・ひぎゃあああああ!!」
 一人の兵士が悲鳴を挙げて尻餅をつくと、それが周囲に連鎖していく。
 恐怖に駆られ、逃げ散る兵士達。
(・・・俺ぁ・・一体どこに行きゃぁいいんだよ・・・)
 悲しげに、ふらつく足取りで張飛は向かう。
 目指す先には、徴略軍本陣−

「・・・で?この人数で迎え撃つのか?」
 主力武将全員が揃っているのを見て、穆順が不快そうに眉を上げた。
「・・・一騎打ちにて、決着をつけようか・・・」
 賀済の発言を、陸遜は目でたしなめた。
「蜀軍も張飛を見捨てません。すぐに救援を・・それも、力づくではなく、策を凝らした部隊を派遣してくるでしょう。張飛一人にかまけてもいられません。」
「なら、どうするの?」
 徴略の問いに、陸遜は黙って、連弩を指さした。
「・・・正面からは戦えない?」
「戦は美学でするものではありません。確実・迅速な手段を採るべきです。・・・せっかく、ここまで来たのに、感傷で全てを失う訳にはいきません・・・」
 それ以上、誰も何も言わなかった。やり方を良しとはしないまでも、今の張飛とはまともに戦えない・・・

 前面に設置された連弩を、張飛はぼんやりと見遣った。
「放てェーーーーッ!!」
 指揮官の号令が響き、無数の矢が一斉に−

 ッ!?

 跳躍。突如として動きを変えた標的を捉えきれず、放たれた矢は虚しく空を穿つ。
「うぅぅぅ・・ごおぉあぁぁぁぁぁあああ!!!」
 獣のような唸り声で、張飛は吠えた。悲しみから怒りへ。激情に衝き動かされるままに、荒れ狂う姿は嵐の様。
 悲鳴を挙げて兵士が逃げ散る。備え付けられた連弩の一基が破壊された。
 張飛の暴走は止まらない。罠をも突破し、本陣へと迫る−

 その張飛の行く手を、一人の男が遮った。
「ぬごおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
 叩きつけられる蛇矛を紙一重の所でかわすと、男の手元から一条の光が駆け抜ける。
 張飛の背後へと着地。同時に、張飛の肩当てが跳ね跳び、勢いよく血が噴き出す。
「・・・ぐぅ!」
 馬上でよろめいて、張飛はようやく、自我を取り戻した。
「大したオッサンだぜ・・しゃあねえ!てめぇの相手はこの甘興覇がしてやらぁ!!」
 不敵な笑みをこぼすと、甘寧は張飛と向き合った。
「覚悟はいいか?・・俺は、出来てる!」

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